【自作小説】 第13の男 〜幸運0の多幸戦士〜 (仮) 【ファンタジー】

第13の男〜幸運0の多幸戦士〜(仮), 冒険譚, 小説

第一章 〜生成〜 第3話

 

 

 

「それでは、難しい話はここまでです!」

幾つかの事項の確認と書類作成、荷物の引き渡しを我が主にしていたレイが、一段落したのか、パンッと小気味良い音を立てて手を叩いた。
我が主も用意された服に袖を通している。

ほとんど黒と言える濃い灰色のコットン製長袖シャツに黒いボトムだ。

膝まで覆う漆黒のレザーブーツはよく手入れされて鈍く光っている。
頭にはやはり黒いキャスケット帽を乗っけているが、似合うといえるかどうかはなんとも言えない。

さらに、ベルトに回した小型の革製ボディバッグまで黒。
この品は、よく見ると全体が複雑な紋様に覆われているのだが、色が黒なのでよほど近付かなければ分からない。

 

ともあれ、分かりやすく言えば、全身黒ずくめの格好だ。

我が主は髪も瞳も黒いので、これで冒険者をやるのだとすれば、まるで歩くワタリガラスではないか。
何を思ってこのような色合いを選んだのか、機会を得られたら問い質したいところである。

 

「あとはとにもかくにも経験です。知っていることと出来ることは違いますから」

腕を組んで大仰にウンウン頷いている。
ネストの最先任職員ということだから、途方もない場数を踏んでいるのだろうが、それを感じさせたのは最初だけだった。
初見の硬さが薄らぐと、レイには見た目どおりの少女らしい賑やかさがあり、華やかだ。

 

続けてレイが部屋の中を緩やかに舞う私に目を向けた。

「それにしても、ジュウゾウさんのガジェットは、とっってもかわいいですね」

「通常、ガジェットは卵に羽根を付けたような形をしていますし、色も地味なんです」

今までで一番力の籠もった口調で、紅い目が私の姿を写し込む。

 

− ふふん、私はかわいいのか。それはそうだろう。
何せ、我が主が丹精込めて生成してくれたのだ。かわいくないわけがない。

「この子はふわふわしていて、色も綺麗で、おとぎ話の中の小鳥みたいです」

こちらを見つめ続けているレイの表情はうっとりしている。
私は少し得意になって、勢い付いてくるくる飛び回る。

 

「そうだ!お名前、付けてみませんか?」

ぱたぱたと羽ばたく私を視線で追っていたレイが、ポンッと手を叩く。

レイの最後の言葉を受けて、我が主がついとこちらを見る。
相変わらず何を考えているかよく分からないその表情を見て、飛び回っていた私は思わず空中で静止した。

 

− 名前を付けてくれるのだろうか −

こちらを見たまま腰に手を当て首を傾げる我が主。うーん・・・と唸っている。

「・・・」我が主と目が合う。が、すぐに逸らされた。

 

− 付けてもらえないのだろうか −

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「サーテ・・・サテン・・・いや・・・サティ・・・」

 

「うーん、うん。『サティ』・・・にしよう。」

たっぷり3分ほど唸り続けた後、我が主が呟いた。

 

時間をかけたわりにちょっと安直な気がするが、名前を付けてくれたことがとても嬉しい。
私は謝意を示すためにその肩に停まり、頬を優しく啄む。

 

「ぴったりな名前ですね。サティちゃんも気に入ったみたいです」くすぐったそうな顔をしている我が主にレイが言う。

ガジェットに名前を付けるのは実はとても珍しいんですけどね、と付け加えながら微笑みをこちらに向ける。むむ、このタイミングで余計なことを。

 

− そう、ガジェットは物言わぬ存在。そして主たる冒険者の補助をすることのみが存在意義であり、主人の命に否応は無い。

つまり、所持者にとって宙を舞える便利道具程度の認識であり、名前を付ける必要性も習慣も無いのだ。

【ヒトガチャ】に生成された冒険者が100人居たとして、姿を与えられるガジェットは3体程度だ。
さらに、姿を与えられたガジェットが100体いたとして、名前を付けてもらえるガジェットは3体居れば良い方だと、私の持つ情報は教えてくれている。

 

それくらい珍しいことであり、狭き門なのである。

 

私は、「余計なことを言うな!」という強い意思を込めて我が主とレイの間に割り込むように飛び上がり、乱暴にレイの頭に尻尾を叩き付けながらくるりと回って我が主の出発を促す。

その行動に驚いたレイが目を丸くしているが知ったことではない。

今、名前を得られるか否かは、今後の私にとって非常に重要だ。予め刻まれた情報だけでなく、本能がそう言っている気がする。
万が一にも我が主が心変わりして、ただのガジェットに戻されるのは御免蒙る。

こんな場所からは一刻も早く立ち去り、我が名を確固たるものにするのだ。

 

我が主は、突然の私の行動をどう思ったのか、苦笑いしながら、「すまない、とりあえず行くよ。それじゃ」と暇乞いした。
踵を返し、

「おいで。『サティ』」

私の名をしっかり噛み含めるように口にしつつ出口に向かって歩き出す。
その言い方は、名前はお前のものだから心配するなと言ってくれているようだ。

 

我が名が確定したことが分かった私は、勇んでその肩に飛び乗った。

 

 

 

「え、あ、ちょっと待ってください!」

扉に手を掛けた我々に、目を丸くしたまま固まっていたレイが慌てたように声を掛ける。

「よろしければ、近接戦闘用の武器をひとつプレゼントしますのでお選びください」

その言葉を聞いて、我が主はチラとこちらを見る。

 

名前が手に入れられた以上、すぐに立ち去る必要は無くなっているし、主人のためになることはなんでも受け入れるのがガジェットの性だ。
その性に従って、私は先導するように素直にカウンターまで舞っていく。

 

ため息ひとつと苦笑いを顔に張り付けたまま、頭を掻きながら我が主も戻ってきた。

「びっくりして忘れるところでした」と呟きながら、背後の棚をゴソゴソやっている後ろ姿が見える。

「それにしても、サティちゃんはとても感情豊かなガジェットのようですね」

取り出した武器をカウンターに並べながらレイが言う。

「あんなことをされたのは初めてです」

語る背中に漂う気配から、苦笑しているのが伝わってくる。

 

− たしかに、一般的な卵形と違い、私は感情、というよりも意思がはっきりしている。
これは生成に際し、特別な姿を得たことで性格付けがされた影響によるものだ。

そして今、我が主より名前を賜ったことによって、私は今後、卵形とは一線を画することが確定しているのだが、それは目の前の二人があずかり知らぬことだ。

そのときになってのお楽しみ、というものである。

 

「・・・主人に似たんだろうな」声も顔も相変わらずの苦笑いで武器を眺める我が主。

これを聞いたレイは、くすりと笑ってこちらを見る。

 

 

私は、素知らぬ顔をして我が主の左斜め上を宙を舞う間の定位置と定めてカウンター上に視線を落とすのであった。